日常54 祖母と仲秋の名月
「月月に月見る月は多けれど月みる月はこの月の月」
読み人知らずのこの和歌を、祖母は得意げに暗唱した。
誰がいつ詠んだもので、どんな本に書いてあるものなのかさえ忘れたが、祖母にとっては気に入っているものらしく。
「月が何個あったかわかるか?」
小学校の授業みたいな質問が飛び出してきて孫は慌てた。
祖母は学校の成績が良くなかったという割に、こういうことを時々さらっと言ってくる。
勉強は嫌いだと言っているが、多分興味のあるなしの問題みたい。
9月13日、夕方のテレビは満月を知らせていた。
祖母は、夜10時に寝る。
孫は、それに合わせて、夜10時から自室で作業してる。
孫の部屋は2階。
もともと、祖母が使っていた部屋。
2階に上がれなくなった祖母は、今1階の客間を寝室にしている。
部屋へ行ってすぐ、祖母から電話がかかってきた。
「月、出とるよ」
そういって、電話を切った。
孫は外に出た。
そんな電話、2か月前にはできるなんて思わなかったよ。
6か月前だったら、多分やっていたような気もする。
街頭なんてない祖母の家周辺は、月明かりですごく明るかった。
山の稜線がはっきり見える。
ウチの目印になっている柿の木は、なんだかいつもより大きく見える。
桜の木の間から見えた月は、眩しいくらいピカピカだった。
なんとなく、祖母との距離が戻った気がした今年の名月。