おばばと暮らせば

瀬戸内海海域の中山間部に住む、90歳のおばばと孫の暮らし。おばばの言葉や思い出が面白すぎたので記録取っていくことにしました。

日常101 祖母と柿

 

 

うちの柿の木、去年は全く実をつけず、

深い緑の葉っぱをつけて、ちょっとお化けのようだった。

 

 

柿には、「裏年」という時期があるという。

 

 

実をつけない年のこと。

 

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柿の木

 

 

 

 

 

かつて、昔、数十年前。

祖母は舅(孫の曽祖父)と一緒に、毎年正月に「成木ぜめ」というまじないをしていた。

 

 

 

 

 

「なるかならんかならにゃあ切っちゃる」

 

ひとりがそう言って、柿の木を脅し、すぐさまもうひとりが、

 

「なるなる」

 

と、柿の木の代わりに返事する。

 

「ほうか、それじゃあ、食え」

 

そう言って、小豆粥を根本にかけてやる。

 

 

 

 

 

孫の住むエリアだけでなく、日本全国にかつてはあった正月の風景である。

 

 

 

ただ、地域ごとにそのやり方は様々で、隣の町と孫の住む村でさえ、少しやり方が異なる。

本当に切ったり、木の棒で叩いたり、やり方はそれぞれ。

切り口に直接粥を流し込んだりするところもあったそう。

 

もし、これを読んでくれてる方で、家に柿の木があったら、

どんなやり方をされていたか、じじさまばばさまに聞いてみてほしい。

 

 

ちなみに、柿の木にやる小豆粥もちょっとこだわりがある。

とんど(「どんど」とも。「どんど」の方が辞典に載ってる)で焼いた餅を、

炊いたあずきの中に入れるバージョンもある。

 

 

つまり、これは小正月1月15日にやっていた習俗のよう。

 

 

 

 

 

去年の秋、この話を聞いて、実際やってみる?とワクワクして聞いてみた。

「裏年じゃけえ、ならんだけじゃ」

と、ごもっともな現実的なご回答をしてくださった祖母。

 

 

 

 

かつて、昔、数十年前。

孫のご先祖様たちにとって、柿も大事な収入源だった。

だから、実がならないとか、死活問題なのだ。

木があんまり好きじゃなくて、庭の木をことごとく切り倒していた祖父でさえ、

柿の木は切るなというくらい、思い出も現実的な問題もぎゅっと詰まった柿の木である。

 

 

 

そんな柿の木は、祖母の言う通り、今年はそれはもうたっぷりと実をつけてくれた。

熊が柿の実目的に降りてくるくらい。(マジ怖い)

 

 

 

現実的な答えを持っていた祖母だけど、

草木や花に、いたわる声かけを欠かさない。

もちろん、柿の木にだって話しかける。

そのほうが、よく育つんだそう。

 

 

 

豊作を願い、祈る気持ちは、令和になった現代だって変わらず人の心にある。

習俗は無くなっていくけれど、伝え続けられていることは、

その行為というより、そこに込められた気持ちなのかもしれない。

 

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とりあえず、今年は無事に父の大好物である干し柿が作れそう