おばばと暮らせば

瀬戸内海海域の中山間部に住む、90歳のおばばと孫の暮らし。おばばの言葉や思い出が面白すぎたので記録取っていくことにしました。

日常8 おカラスさんのこと  vol.1

百姓仕事は想定外だったけれど、祖母と住むことで楽しみにしていたことの一つが、地域の習慣行事を見ること聞くこと、そして記録すること。

 

研究者にはむいてない(と恩師に言われた)し、かといって何かを継承できるほど器用でもない。ただ、昔話とか祖母の話とかが子どもの時から好きだった。

そこで、それを何かしらの形で記録できないかと思っている次第です。

 

祖母と暮らすことで触れる習慣行事は、時々ギョッとするほど神秘的。

 

 

 

今日はそんな私の趣味一色な内容なので、興味のある方は良かったらお付き合いくださいませ。

 

 

 

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宮島の鹿(撮影:妹)

 

 

私が生まれ育った広島県は、瀬戸内海に面していて、県内には島々もたくさんあります。

たくさんある島々の中で、有名な島の一つが「宮島」でしょう。

 

ここにある神事の一つに、私は人生狂わされたといってもいいくらいのめり込んでいます。

 

その神事は、野生のカラスにお供えものを、海の上で行うもの。

厳島神社ではその神事を「おとぐいしんじ」といいます。

漢字で「御鳥喰神事」と書きます。

 

これはどちらかというと、とてもマイナーな祭りで。

というのも、一般人が参加できるのは年に1度だけ。

さらに、早朝出発。

 

(ちなみに私は一度遅刻し、神社さん・世話人の方々に大変ご迷惑をおかけしたことがあります…本当にごめんなさい)

 

それが、先月の5月15日に今年もありました。

この神事は、お島廻りという行為の中で行う神事です。

宮島といえば「厳島神社」がとても有名な神社ですが、他にもたくさんの神社があります。その内、7つの神社が島の浜に点在しています。

それらを船に乗って巡拝することを「御島廻式」と言い、7つの神社を参拝すると「禊」といって身を清めることができると言われています。

 

神社の前に手を洗ったりする行為があるでしょ、あれの大掛かり版のようなものです。

 

その禊ができているかどうかを占うのが、「御鳥喰神事」。

本当に、マジで、ガチで、野生のカラスが出てきます。

海の上から、神職の方(御師と言います)が祝詞をあげて笛を吹いて、我々参拝者は船の上から、ただ見守ります。

神職の方は団子を木の板(粢)に乗せて海に浮かべます。それがカラスへのお供もの。

団子は海水で作るそうです……美味しいのかな?

 

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御鳥喰神事 2019.5.15(撮影:妹)

 

早い時はものの数分でカラスがやってきます。

いろんな野鳥が飛び交う中、カラスだけがきます。

この時現れるカラスはただのカラスじゃなくて神様の使いなので「神鴉(ごがらす)さん」と呼ばれています。

我々参拝者の穢れがちゃんと祓われていたら、カラスが、いやいや神鴉さんが現れて団子を持って巣に帰られます。

 

ただし、そこは野生のカラス。

やっぱり現れない時ももちろんあって。

一昔前はそれこそ現れなかったら、一つ前の浜に戻って神職さん全員ふんどしになって海水を浴びて禊をされていたそうです。

そのくらい、シビアな神事だったそう。

 

現代は、さすがにそこまでシビアではありません。ただ、ひたすら待ちます。

待って待って待って……それでも来ない時はそりゃありますよ、だってカラス相手だもん。

 

それでもこの神事に参加したことに意味がある!!!!!

 

実際、ただ船に乗っているだけでも相当体力使います。

神職の方々は、もちろんものすごく大変。

 

カラスが現れても、現れなくても、この神事に参加したことに意味がある!!!!

 

 

 

 

この御鳥喰神事、もともと、厳島神社に参拝することができるか否かを占うものでした。

おもしろポイントは、厳島神社の神様が島のどこに住もうかしらと占ったのが始まりです、というエピソード付き。

神様がした行為を、今は私たちがして神様を思い出す日という感じ。

 

ちなみに、この「御鳥喰神事」、実は全国にありました。

昔はね。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで話はうちのおばばに戻ります。

 

戻るんです。

 

だってこのブログはおばばのブログだから!!!

ここまで頑張って読んでくださった方々、ありがとう!

おばばがようやく出ます。

 

なぜ、うちの祖母が出てくるかと言いますと、この話を祖母にしたところ。

 

「私もしちょったよ、それ」

 

とのこと。

信じらんない。

 

祖母がしたのは、お葬式でのことだそう。

 

今でこそ、お葬式は典礼会館さんとかで行うものですが、一昔前は家でしていました。

家で葬儀をして、みんなで村の火葬場へ運びます。これを野辺送りといいます。

 

その時、祖母がいうには、家で米粉で団子を作り、仏さん(故人)にお供え。

野辺送りと一緒に持っていって、火葬場の近くにある地蔵さんのそばに置いていたらカラスが食べにきていたと。

そして、カラスが食べてくれたらええらしい。

なんでいいのかはわからないし、「あがぁなのは(ああいうものは)迷信よぉ」と言い切る祖母。

それでも昔の習慣だったからやっていたそうです。

現実主義で、でも郷に入れば郷に従う祖母。

 

ちなみに、これは私の曽祖母の時の話。

こんな近くにあったなんて……そんなの調べたくなるに決まっている!!!

 

というわけで、私は祖母と暮らし始めたといってもいくらい。

 

御鳥喰神事は奥が深い。

結局私はこれで修士論文まで書いちゃった。

でもまだ先があるようで、論文はたくさん出ているけれど、私だってまだまだ書きたい。

 

時々こうして習俗的なこともつらつら書かせていただきます。

興味のある方は良かったらお付き合いください。

おじいさま・おばあさまから似たような話聞いたという方は、ぜひ孫までご一報ください。

いつかおカラスさんのこと、もう一回論文にしたいなという夢を持っています。

 

最後に一言、この話をすると大抵勘違いされるんですが、私はカラスが好きなわけではありません。

 

たまたま、気になるものがそれだっただけなの!

 

以上、今日は孫の趣味でした。