おばばと暮らせば

瀬戸内海海域の中山間部に住む、90歳のおばばと孫の暮らし。おばばの言葉や思い出が面白すぎたので記録取っていくことにしました。

日常50 祖母と夕飯

 

 

畑にたくさん自然発生している宝物。

幼い頃、父があまりにも美味しそうに食べていたので、

ほんのすこし食べたくなって手を伸ばすと、

 

「バカになるど、やめとけ」

 

目が座っている父、あ、これは本気で怒ってる…

東京で仕事をしていた時期が長いので、父は比較的標準語で話してくる。

それが、全力の方言で、独特の訛り。

とんでもないものが食卓に並んでいる、と本気で恐怖した幼い孫。

 

バカになるのに、なぜ大人が食べているのかなんて疑問すら出てこなかった。

 

 

あれから孫も、立派なおばさんになったが、

あれは食べちゃいけないんだって、実は大学生くらいまでガチで勘違いしていた。

 

 

 

 

大人が必死で騙してくる、本気で美味しいもの、「ミョウガ」さまである。

 

 

 

 

帰宅早々、なにやら空腹を促す香りで満ちているリビング。

手の手術痕がようやく痛まなくなった祖母は、すこしずつ動いている。

掃除を孫がしようものなら、ぶんどる勢いで「リハビリだ」と言って掃除機を出してくる。

なにもしないとボケるからと、デイサービスに行くたびに友人たちから忠告されているそう。

 

 

そんな祖母が、今日はあのミョウガさまで炊き込みご飯を作っていた。

 

 

ずっと前に、お隣さんからもらって美味しかったから、作り方をせがんだそう。

手伝うと怒るので、孫はひたすらじっと見守る。

初めてだからうまくできたか不安を3回も4回もこぼしながら、しゃもじを水で洗う。

最初によそうのは仏前と神前。

器が見つからなくてあっちこっちウロウロするが、それは孫の目の前にある。

そんなことはしょっちゅうなので、とりあえず粘る。

流石に可哀想になってきたので教える。

机の上にあるお盆をとって、準備をしたら、曲がった腰をうんと一瞬伸ばして、肘をつく。

炊飯器の電源を落とす。保温のままだと腐るから。

仏壇と神棚用に盛ると、それをお盆にのせて、曲がった腰で仏間へ向かう。

すこしするとお経が聞こえる。

同時にお線香の香りがすこししてくる。

お経は、祖父が生きているときは、祖父がしていた。

お供えものは、祖父の妹がしていた。

それを全部、今は祖母が1人でしている。

孫は、それを見ている。

時々、祖母がいないとき、代わりにやってみたりする。

あってるのかなーと、祖母がミョウガの炊き込みご飯のできを心配するのと同じくらい、何度も心配しながら、おっかなびっくりやっている。

 

 

ミョウガの炊き込みご飯は、それはもう、旨かった。

父が独り占めしたくなる気持ちもわかるようになった孫。

だけど祖母は、孫にどんどん進めるから、断る言葉を必死に取り繕う。

 

 

「また作ってね」が、殺し文句になっていることも、孫はようやく学んできた。

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ミョウガの炊き込みごはん